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【速】 特定製法で作られた物の同一性(最高裁判決)

化学・バイオを専門とする者にとって、非常に重要な判決がなされました。

物の発明を特定する作法として、その物の製造方法で特定するというものがあります。

例えば、「~工程を含む方法によって製造される、物」というものです。

このような作法で発明を特定した請求項を、専門用語で、Product-by-process claim(プロダクト・バイ・ブロセスクレーム)とよびます。

判決の中では、頭文字をとって、「PBPクレーム」とよばれています。

このPBPクレームには問題があります。

けっきょく、その「物」の技術的範囲は、方法によって決まるのか、それとも物自体によって決まるのか、どちらなのか、ということです。

この点について、これまでずっと議論されてきました。

過去の裁判例では、「場合によって、方法だったり、物自体だったり」というものでした。

ところが、今回の判決では、「物」の技術的範囲は、特定の製造方法で製造されたものであっても、物自体によって定めるべし、となっています。

むしろ、特定の製造方法で物の発明を特定できる場合というのは例外的なこと、と見受けられるような判示があります。

すなわち、PBPクレームは、「発明が明確であること」との要件(特許法第36条第6項第2号)に照らせば、特定の事情がある場合に限って使用され得るのです。

そして、その事情というのは、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情」です。

* * *

ここからは特許実務家としての意見を述べさせていただきます。

「可能である」、「実際的である」ということを証明するのは比較的容易です。

出願当時の技術でやってみたらできました、出願当時の文献にこういうことが記載されていました、ということを立証すればよいのです。

一方で、「不可能である」とか、「実際的でない」とか、否定的なことであったり、実像のないものを証明するというのは非常に難しいことです。

なぜ、ない? ないものはないから。 なぜ、ない? ・・・・無限ループです。

また、上記判決において、裁判官は次のようなことを述べています。

「例えば,生命科学の分野で,新しい遺伝子操作によって作られた細胞等であれば,それを出願時において構造等で特定することに不可能・非実際的事情が存在しないとして拒絶されるとはいえないであろう。」

誰もが想像のつくように、iPS細胞関連発明のことをいっているのだと思います。

このような裁判官の意見に異論を唱えるようなことはありません。むしろ、諸手を上げて大賛成です。

一方で、上記事項について、是とする根拠がない、ことにも触れないわけにはいきません。

指針化されない限り、明らかに「不可能である」や「実際的でない」ことでさえ、無意味に立証しなければならなくなる可能性があるということです。

けっきょくのところ、PBPクレームは無意味化するようになるかもしれません。

PBPクレームで権利化したところで、侵害訴訟を起こせば、無効の抗弁などにより負ける確率が高くなる可能性があるからです。PBPクレームで特許を取得しようとする出願人(代理人)は減ることでしょう。

結果として、これまではPBPクレームとして発明を特定すればよかったところを、無理矢理に物の構造や特性で物を特定することになりかねません。

特許法第2条第1項にあるとおり、発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいいます。

元企業内研究者としては、特定の製造方法ですでに得られている物に対して、要件を満たそうとするがために、物の構造や特性を決定するために同定や定量を繰返す行為は、「創作」の観点からしてどれだけの技術的意義があるのか疑問です。

それこそ単なる発見作業を助長するようなことになりかねないのではないかとさえ危惧します。

考えられることとしては、特定の製造方法で得られた物について特許出願をする→1年以内に物の構造や特性を決定して優先権主張出願をすることが挙げられます。

この場合、優先権主張の効果はどの程度にまで及ぶのでしょうか。疑問です。

まずは、上記の「不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情」というのを立証するために、何をもって、どのようにすればよいのか、を審査基準等で明確にして欲しいものです。

他にも言及したいことはいろいろとありますが、一旦は筆を置かせていただきます。

 

弁理士 森本 敏明

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