【談】 イノベーションに必要なもの
先日、とある講演会の中で、研究開発費について触れていました。
講演者は企業の研究者の方で、研究開発費が売上の10%を占める、これは高い方だ、と述べていました。
確かに、製造業の研究開発費の平均は約4%といわれているので、その基準からすれば高いように思います。
一方で、製薬企業の場合は15%が目安。
業界も違うし、製薬企業を目安にして考えるべきではない(製薬企業の常識は世の中の会社の非常識)ともいえます。
しかし、イノベーションには、絶対的に「カネ」が必要なのはいうまでもないでしょう。
10%を高いと思うか、まだまだ足りないと思うかは主観によりますが、研究開発型の企業であるのであればもう少し高くてもよいのではないか、とも思えます。
ただし、イノベーションの源泉は「ヒト」です。「カネ」があれば必ずイノベーションが生まれるというわけではありません。
そうはいっても、「ヒト」を活かすも殺すも「カネ」次第というのが事実だと思います。
ところで、日経ビジネスの抗癌剤薬価改正の記事の中で、製薬企業は臨床試験を含めて研究開発を効率化して、ムダな支出を抑えるべきだ、という内容のことが書かれていました。
ムダな研究開発費というのが存在するのか、正直、疑問です。
製品・サービスを生み出したのは良かったのだけれど、そもそも市場がなかった、又は市場があると見込んでいたら存在しなかった、そのために製品・サービスを生み出すのに費やした研究開発費が回収できなかった、ということはあり得ます。
しかし、それは研究開発に問題があるのではなく、市場を捉えきれなかったことに問題があります。こういった事象によって、研究開発費を抑制するというのは本末転倒でしょう。
もちろん、研究開発を進めたけれども、製品・サービスという形に至らなかった、というのには問題があります。しかし、それもまた、研究開発をする前の段階で、配慮が足りなかったという話なのかもしれません。
一般的な製品・サービスの創出サイクルは以下のとおりになります。
研究開発費をケチると、この流れが中抜きになって、徒労に終わります。
さらにいえば、研究開発費を回収することを見込んで製品・サービスの値付けをする、というのは以ての外です。
製品・サービスの内容(質・量)によって、価格は決定されなければなりません。
先の抗癌剤もそうでした。その医薬の可能性を考慮せずに、目下の原価と市場(適用疾患)を見据えて価格が設定されて、大変な事態に陥ったのです。
まとめると、イノベーションには研究開発費が絶対的に必要である、研究開発費が嵩んだからといって製品・サービスの価格をつり上げてはならない、ということになりますでしょうか。
なお、イノベーションが生み出された暁には、特許権などの知的財産権の取得が必要です。
研究開発に力をいれず、知的財産権の取得を目指さないとすれば、待っているのは泥沼の価格競争です。ロングテールなど、望むべくもありません。
企業経営に至っては、何が投資で、何が経費かを定義付けることが肝要でしょう。
弁理士 森本 敏明
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