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【疑】 被引用件数で企業の価値が計れるか

気になるニュースがあったので、少し考えてみたいと思います。

そのニュースというのはこちら

集計の詳細はわかりませんが、他社牽制力を「2017年の特許審査過程において他社特許への拒絶理由として引用された件数」によって分析しているようです。

そして、「この集計により、直近の技術開発において競合他社が権利化する上で、阻害要因となる先行技術を多数保有している先進的な企業が明らか」になるとのことです。

果たして、そうでしょうか。以下は、批判ではなく、疑問として捉えてください。

確かに、「引用された件数」の基になっているのが「特許」(被引用特許)であればわかります。主引例として引用されているのであればなおさらです。そこまで突き詰めているのであれば、なるほど、他社牽制力をはかるような分析になっていると思います。

しかし、主引例にもならないような「特許出願」(被引用特許出願)を含むとなると、評価が微妙になります。

例えば、特許請求の範囲や発明の詳細な説明に公知技術をたくさん記載しておけば、引用される回数は増えます。技術常識を構成する周知技術をあらわす文献として引用されることになるでしょう。

もちろん引用されているわけですから、価値が無い、とまではいえません。ただ、専門家であれば、こういった文献が引用されても回避するのは簡単です。補正すら必要がないことも多いでしょう。そういった特許出願に係る公報までも「牽制力」がある、というのはどうでしょうか。

さらにいえば、引用された特許出願の出願人が被引用特許・被引用特許出願の企業と競合関係にない場合はどうでしょうか。特許審査では、思いもよらない企業の特許公報が引用される場合も多々あります。ただ、そういった場合には、やはり回避するのが難しくはありません。

ということで、「引用された件数」の基になっているのが、「特許」であり、主引例として引用されており、かつ、引用された特許出願の出願人が競合企業である、という条件が揃えば、被引用件数によって他社牽制力をはかることができるでしょう。

ただ、これをするとなると、なかなかに大変です。特に、主引例として引用されたかどうかを検索するのは難しいと思います。

では、どういった分析をすれば簡単に「牽制力」を知ることができるのでしょうか。

私どもとしては、「登録された特許のうち、情報提供・異議申立・無効審判の経験特許の数の割合」で充分に評価できると考えています。

例えば、記事中では、化学業界において、「2017年に最も引用された企業は、富士フイルム、次いで三菱ケミカル、花王となりました。」とあります。

そこで、富士フイルム社と花王社について少し分析してみようと思います。

まず、全体の傾向から。

2017年に登録された特許の数は199,577件。

そのうち、情報提供・異議申立・無効審判の少なくともいずれかがなされたことのある特許の数は3,530件です。

ということで、2017年に登録された特許のうち、情報提供・異議申立・無効審判の経験のある特許の割合は、1.8%となります。

一方、「富士フイルム」が含まれる出願人・権利者のそれぞれの数・割合は、1,365件、34件、2.5%です。

それに対して、「花王」が含まれる出願人・権利者のそれぞれの数・割合は、804件、37件、4.6%です。

富士フイルム社・花王社ともに、情報提供・異議申立・無効審判の経験特許の割合が全体の割合よりも大きいというのは流石といえるのかもしれません。

ただ、二社の比較では、花王社の方が数・割合ともに大きくなっています。被引用件数に基づく結果と逆転しています。

もちろん、この結果だけで、花王社の方が他社牽制力をもっている特許を効率良く取得しているというのは乱暴です。情報提供も異議申立も無効審判もされた特許と情報提供1件のみをされた特許とを同列に扱ってよいとする理由もありません。マスによるマクロ分析の限界です。ただ、指標の一つにはなるのではないでしょうか。

なお、どこの企業とまではいいませんが、情報提供・異議申立・無効審判の経験特許の割合が10%、20%を越える企業もあります。こういった企業を探して詳細に分析してみるのも面白いと思います。

最後に宣伝ですが、上記のようなマクロの分析だけではなく、ミクロ(個々の特許)の分析、さらにはこれらをクロスオーバーした分析についても、私どもではご依頼を承っております。気軽にお問い合わせください。

弁理士 森本 敏明

To the NEXT STAGE ~知的財産を活用して次なる段階へ~

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