【談】Deflagateの顛末~疑わしきは罰せず~
日本では全国的に不安定な天候が続く最中、遠い米国では一つの注目すべき判決がなされました。
とはいっても、知財に関連するものではありません。
米国プロスポーツの中でも最も人気があるといわれているNFL(プロアメリカンフットボール)に関係する判決です。
ことの発端は、試合中にNew England Patriotsというチームが使用していたボールの空気圧が規定値を下回っていたというもの。
空気圧が減れば、その分、手で掴みやすくなります。投げたり、持ったり、受け取ったりすることが楽になるのです。
そこで、チームやボールを投げるポジションであるQBがこの事件に深く関与していたであろうということで問題になりました。
この事件は、空気を抜くという用語(deflate)に、疑惑という意味で使われている用語(gate)を合わせて、「Deflagate」と呼ばれています。
ちなみに、New England Patriotsは、昨シーズンの全米王者を決めるSuper Bowlの勝者です。
NFLはこの事件を重くみて、チームに対して高額の反則金と2016年のドラフト1巡指名の没収を課しました。
これに対して、チームは潔く処分を受けることを認めました。
一方で、NFLは、チームのQBであるTom Bradyには4試合の出場停止処分を課しました。
Tom Bradyというのは、チームの看板スターというだけではなく、NFLの中でも、もっといえば全米中から注目を集める選手です。
ドラフト下位から登り詰めた、いわばアメリカン・ドリームの体現者とさえいわれています。
そのスター選手に、NFLは全試合数(16試合)の1/4にあたる試合の出場停止を言い渡したのです。
しかし、問題なのは、正当な証拠がないのに、NFLはこのような重い処分を課したということです。
NFL側の言い分は、Tom Bradyは調査に際して長時間のインタビューに応じた、しかし、携帯電話の提出などの証拠の提出を拒み(携帯電話は最終的に紛失)調査に非協力的だった、だから(疑わしいので)4試合の出場停止とする、というものです。
これに、当の本人、そしてNFLの選手会は猛反発。処分の無効を求めて争いは法廷へ、ということになりました。
法廷がはじまると、間もなく、担当判事が両者に和解を提案。
処分が有効かまたはその可能性が高いのであれば、和解が提案されることはなかったでしょう。
和解が提案されたというのは、処分が無効であるという心証が早くも形成されていたので、NFLのメンツのためにも、お互い話しあって妥協点を見つけなさい、ということだったように思います。
実際に、Tom Brady側は、調査に不誠実だったことを一部認め、出場停止試合数が1試合であれば、和解を受け入れる準備があったそうです。
ところが、NFL側が頑として受け付けず、和解は決裂。
その2日後に、予定どおりといいますか、処分無効の判決がなされました。
結果的には、選手側の大勝利です。
では、この判決について、世論はどうなのかといったら、New England PatriotsやTom Bradyは嫌いだけれども判決は妥当、という声が大半です。
なぜなら、証拠、特に物証がなかったからです。
しかし、判決が出る前はどうだったのかというと、世論は処分は妥当と考えていたようです(こちらを参照)。
結果としては、感情的には処分は妥当だけれども、論理的(法的)には処分は不当、ということになりますでしょうか。
最近、日本でも、法ではなく感情に押し負けた事件があったように思います。
なんら関係のない第三者が感情的に良い・悪いというのは、言論の自由からいっても当然許されるべきことです。
しかし、本当に良いのか、悪いのかという点については、司法の場で、法に基づいて冷静に判断されるべきだと思われます。
法治国家であるならば、感情ではなく、法で裁かれるべきということです。
弁理士 森本 敏明
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