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【思】 特許権損害賠償の行方

特許を含む知的財産権の紛争処理について、政府等によっていろいろと議論されています。

その中で、損害賠償額について見直そうという動きがあります。

我が国での特許権侵害訴訟における損害賠償額は、高くてもせいぜい10数億円程度です(平成17年(ワ)第26473号、平成14年(ワ)第6178号など)。

それに対して、米国では数百億円という損害賠償額が散見され、中には1,000億円を越えたという裁判例もあります(Centocor Ortho Biotech vs Abbott Labsなど)。

訴訟手続などが違う両国の損害賠償額を持ち出して議論することは、必ずしも妥当ではないかもしれません。

しかし、事実としてこれだけの開きがあります。

一方、我が国の職務発明対価請求訴訟においては、200億円という額が認められた事件があります(平成13(ワ)17772)。

これは突出して高いのだとしても、事実としての認容額です。

特許権侵害訴訟における損害賠償額は高くても10数億円。

それに対して、職務発明対価認容額は200億円。

事件(発明)も違えば、根拠条文も違い、やはり比較する妥当性に欠けるのは承知の上ですが、それでも特許権の価値という観点からみれば、この両者の開きに矛盾を感じずにはいられません。

もちろん、特許権の行使には、損害賠償請求以外にも、差止請求という強力なものがあります。

一方で、損害賠償額を上げる代わりに、差止請求権に限定を設ける、という議論があります。

この議論はどう考えてもおかしい。

現在及び将来の侵害を防ぐために侵害品を差し止めるのは前提条件です。

その上で、過去の行為等に依拠した損害についての賠償額をどうしましょう、という議論になるはずです。これらの権利はバーター的に存在するものではない、と思うのです。

少し逸れましたが、話は損害賠償に戻ります。

現在の損害賠償のあり方に満足している者は、有識者をはじめ、勝訴した特許権者にとっても少数派です。

ちなみに、損害賠償を負う被疑侵害者の立場では、損害賠償の認容に納得した者・納得していない者はほぼ同数です。

損害賠償が認容された際に、勝訴側は不満が残り、敗訴側は納得する。

やはり現行の損害賠償制度には問題がありそうです。

特許権の魅力を向上させるという意味でも、損害賠償に関する法改正等が待たれます。

 

弁理士 森本 敏明

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