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【続報】八丁味噌問題(2)

 

信濃毎日新聞(2021/07/01 夕刊)の7頁に、地理的表示(GI)に関する八丁味噌問題について取りあげられていました。

 

前回の記事はこちらです。

愛知県岡崎市八帖町の老舗2社が「八丁味噌」の表示を使用できなくなる可能性がある、という問題です。

「八丁味噌」の生産地を愛知県全体に広げた理由として、農林水産省は、

「昭和初期から八丁味噌の名称を使った他社製品があり、生産地は愛知県全体に広がっている」

といっています。

また、農水省が設置した第三者委員会は八帖町の老舗2社の製品を「元祖八丁味噌」として表示することを提案したようです。

この提案はどうなんでしょう。「元祖八丁味噌」なんて目にしたことがありません。

けっきょくのところは、八帖町の老舗2社に対して、地理的表示が登録された生産者団体に合流せよ、というものなんでしょう。それが受け容れられないから問題になっているわけですが。

一方、記事によれば、同様の制度がある欧州では、伝統製法を守る小規模な生産者が不利な立場に陥る場合もあるようです。

地理的表示保護制度のために、伝統製法を守ってきた会社が淘汰される、というのはどうなんでしょうか。

なお、この制度を規定する「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」の第1条には、以下の記載があります。

特定農林水産物等の生産業者の利益の保護を図り、もって農林水産業及びその関連産業の発展に寄与し、併せて需要者の利益を保護することを目的とする

「生産業者」が登録生産者団体の構成員に限定されるのか、既存の生産業者にまで及ぶのかは、定かではありません。

感情的には、伝統製法を守ってきた会社にまで及んで欲しいものです。

この問題の解決策の一つとして、八帖町の老舗2社からなる組合が同じ「八丁味噌」について地理的表示が登録されればよいように思います。

そこで、条文について眺めてみました。登録の拒否を定める第13条には以下の規定があります。

一 生産者団体について次のいずれかに該当するとき。
イ 第二十二条第一項の規定により登録を取り消され、その取消しの日から二年を経過しないとき。
ロ その役員(法人でない生産者団体の代表者又は管理人を含む。(2)において同じ。)のうちに、次のいずれかに該当する者があるとき。
(1) この法律の規定により刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者
(2) 第二十二条第一項の規定により登録を取り消された生産者団体において、その取消しの日前三十日以内にその役員であった者であって、その取消しの日から二年を経過しない者

四 申請農林水産物等の名称について次のいずれかに該当するとき。
イ 普通名称であるとき、その他当該申請農林水産物等について第二条第二項各号に掲げる事項を特定することができない名称であるとき。
ロ 次に掲げる登録商標と同一又は類似の名称であるとき。
(1) 申請農林水産物等又はこれに類似する商品に係る登録商標
(2) 申請農林水産物等又はこれに類似する商品に関する役務に係る登録商標

上記条文からは、八帖町の老舗2社からなる組合が「八丁味噌」の地理的表示を受けるのは不可能であるようには思えません。

とはいえ、八帖町の老舗2社は現在の登録処分の取消を求めているので、根本的な解決にはならないのでしょうが。

いずれにしても、そもそもとして、上記目的を達するのであれば、地理的表示を一つの登録生産者団体に独占的に使用させなくともよいようには思います。制度設計の話になるかもしれませんが。

なお、裁決書を読んだ限りでは、かなり強引な裁決理由であるように思われます。これについては、いずれ別の機会に。

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弁理士 森本 敏明

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