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【論説】特許調査の主体

 

日鉄vsトヨタの無方向性電磁鋼板事件について触れます。

 

事件の概要は、電動車のモーターなどに使う「無方向性電磁鋼板」について、トヨタ社が中国鉄鋼大手の宝山鋼鉄社のものを使用していたところ、この両社を日本製鉄社が特許権侵害で提訴したというものです。

報道によれば、この提訴は、トヨタ社としては寝耳に水のようです。

トヨタ社は宝山鋼鉄社から特許権侵害の事実はないという説明を受けていました。

事実はともかくとして、気になる点を見ていきましょう。

まずは、中国企業である宝山鋼鉄社が、日本語特許を十分に調査し得たのか、ということです。

日本人が日本語の特許を調査するのも、なかなか骨が折れます。

日本語は、意味するものが同じでも、複数の単語があてられます。一つの単語で複数の意味があてられる英語とは真逆です。

特許調査をしている身としては、日本語特許の調査よりも、英語特許の調査の方が優しく感じられるぐらいです。

日本語の特性一つを考えてみても、中国企業である宝山鋼鉄社が、日本語特許を十分に調査し得たか否かについては疑問が残ります。

とはいえ、もしかすると、日本の特許調査会社に依頼したかもしれません。その上で、侵害している特許は無い、と判断したのでしょうか。

もしそうであれば、トヨタ社は、取引前のDue diligenceにおいて、その日本の特許調査会社による報告書を読んでいるはずです。

その報告書には、侵害の可能性のある特許が列挙されていたことでしょうから、当然にリスクを承知していたはずです。

しかし、寝耳に水のようなので、そのような報告書は無かったでしょうか。とすると、日本の特許調査会社による調査は実施されていなかったのかもしれません。

次の気になる点はここです。トヨタ社は、宝山鋼鉄社がしたであろう特許調査の報告書を見たのかどうか、ということです。

報告書を見たのであれば、侵害するおそれのある特許はあるのか否か、その特許調査が十分になされていたか否かを検討することができたはずです。

そして、特許調査報告書を見ていない、或いは見られる状況には無かったのだとすれば、どうして自社で特許調査をしなかったのか、という疑問点に繋がります。

原料会社が特許調査をしたのであれば、製品会社は必ずしも特許調査をしなくても良いと思います。

しかし、少なくとも特許調査の結果、好ましくは特許調査の方法(検索式、使用ツールを含む)及び結果が記載された報告書は、取引前条件として確認すべきです。

そして、それらが確認できないのであれば、製品会社においても特許調査をすべきでしょう。

一方、特許調査報告書の妥当性を評価するのはなかなか難しいことです。

そういう場合は、私どもをはじめとする、特許調査に長けた専門家にレビューを依頼して欲しいと思います。自社でした特許調査の妥当性についても同様です。

なお、特許調査報告書を製品会社に見せるのを好ましいと思っていない原料会社は多いと思います。

特に海外企業はその傾向にあります。調査の責任を負いたくないというのもありますが、検索の仕方によって、自社の製品や製造方法のノウハウが知られることを避けたいとも思っているからです。

昔みたいに、使ってあげるんだから情報は総て開示せよ、なんていうことは海外企業には通用しません。現在の日本の企業でもそうだとは思いますが。

今回の事件を教訓として、FTO調査はくれぐれも慎重に実施することをお勧めします。

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弁理士 森本 敏明

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