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【治療】ブタの心臓をヒトへ移植

 

少し前にニュースになっていた技術を紹介。

 

私が目にしたのは、朝のニュースで少しだけ。

当時は、スゴいニュースなのに詳細な解説がないなぁ、と思っていました。

そこで、たまたま詳細を目にしたので紹介します。今回もまた、Nature Vol. 601 pp.305-306からです。

今年1月7日、University of Maryland Medical Centerの医師らによって、David Bennettさん(57歳)へブタの心臓が移植されました。

術後の経過は順調だとのことです。

特徴なのは、移植されたブタの心臓はほぼブタの心臓だということです。

ただし、そのまま移植しては、拒絶反応が起きたり、心臓が大きくなり過ぎたりします。

そこで、大きく3つの遺伝子改変が行われました。

1つ目は、拒絶反応を引き起こす、ブタの3遺伝子のノックアウト(遺伝子の無効化)。

2つ目は、ブタの心臓がヒトの体内で受けられるようにする、ヒトの6遺伝子の導入。

3つ目は、心臓をヒトのサイズに保つための、成長ホルモンへの反応を阻害する遺伝子改変です。

これらを施したブタの心臓をヒトへ移植することにより、ヒト体内でも機能するようになりました。

もちろんこの移植には様々なハードルがあったのですが、その一つはFDAの許認可でしょう。

移植する前、FDAへ臨床試験の開始を申請したところ、却下されています。

ブタをMedicalグレードの施設で生育すること、まずはサルで試すことを求められたとのことです。

この判断は仕方がないですね。

ただ、今回用いられたブタはClinicalグレードで生育されています。養豚場で生育されたブタではもちろんありません。

こういった障壁があったのですが、今回移植を受けたBenettさんが医師たちにGoを出しました。

結果、手術が行われることになったのですが、Bennettさんも、そして医師たちもかなりのリスクを背負っています。

費用については、詳しくは知らされていません。

例として、一匹のサルに臓器を移植して、いろいろとテストするのに、USD 500,000(5700万円)かかるといわれています。

ヒトでする場合は、その倍以上かかるでしょう。やはり高価な手術費が最大の課題です。

継続して手術するためには、ブタの供給量の問題もあります。

そして、もちろん、倫理的な問題も。

仮に上手くいかなかった場合、医師たちの責任は問われないのか。

そして、キメラの問題。どこまで、ヒトと他の生物種との融合が許されるのか。

この点については、これから議論されていくのでしょう。

今回は心臓移植が行われました。

そうなると、肺、腎臓、肝臓などの他の臓器への応用が期待されますが、これはなかなか難しいと思います。

心臓は血液を送るポンプの機能を担いますが、肝臓などと比べると機能的には単純です。

腎臓は可能性があるのではないかといわれていますので、次なる症例は腎臓かもしれません。

ところで、今回のように、ヒトに適したブタの心臓、その心臓をもったブタなどは特許の対象になります。

ブレークスルーのあるところに発明あり、ですね。

最後に、このニュースはかなり画期的なのですが、日本のニュース番組ではほとんど報道されていないように思います。

iPS細胞などの多能性幹細胞から臓器をつくることが期待されていますが、まだまだ時間はかかるでしょう。

私も遙か昔に細胞から臓器をつくる研究をしていましたが、やはり二次元の細胞シートはつくれても、三次元の立体構造を有する臓器をつくるのは至難の業だと感じたものです。

だからといって、不可能ではないと思います。

例えば、ブタの臓器をベースにして、オセロのようにヒトの細胞に置き換えるというのも可能性としては考えられます。

いずれにせよ、今後の移植分野の展開に注目しています。

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弁理士 森本 敏明

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