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【百選17】 出願後に提出された実験結果

特許判例百選(第4版)の第17項において、知財高裁平成22年7月15日判決(平成21年(行ケ)第10238号)が解説されています。

本判決では、出願後に提出された実験結果を参酌して、発明の作用効果の顕著性を認めています。

解説者であられる高橋隆二弁護士は、本判決は従来の判決例とも整合し、特許・実用新案審査基準とも親和的であるとしつつも、「当初明細書において効果を認識または推認できる程度の記載がある場合の例外基準としての具体的な当てはめにおいて、本判決は当初明細書においてはA活性種とB活性種との組合せによる各成分の和を超えて当初明細書にそのように推論できる記載があるか否かの事実認定に関してはその評価が分かれよう。」と述べています。

この点、重要となるのは、本件出願時の技術水準や技術常識でしょう。当初明細書に明確な記載がないのであれば、当初明細書の記載を補完して発明の理解を助ける役目を担うのが技術常識等だからです。しかし、本判決では、上記事実認定について、必ずしも本件出願時の技術常識等を踏まえて判断していないように思えます。

その一方で、特許庁や裁判所は追加実験等の真実性を検証する能力がないことから、高橋弁護士は、「本判決は、顕著な効果を奏する発明の保護の観点から登録によって一旦保護したうえで、追加実験に対する第三者からの弾劾立証の機会を認めることによって第三者の利益とのバランスをはかったと評価できよう。」と締めくくっています。確かにそうなのでしょうが、問題なのは、本件の発明が用途発明であるということです。用途発明とは、ある物の未知の属性を発見し、この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明を指します。つまり、用途発明は、物が新規であるか否かに係わらず、物の「未知の属性を発見」することによりはじめてなし得るものなのです。物の「未知の属性」が発明の効果と直ちにイコールの関係にあるとはいえませんが、用途発明の未知の属性(効果)を出願後に提出した実験結果により立証する場合、未知の属性の「発見」の基準時はいつになるのかという問題があるように思います。

用途発明である場合に、出願時に必要とされる実験結果はどのようなものか。これは、上記のとおりに、本願出願時の技術常識等に基づいて考えなければなりません。そして、この点を発明者に適切にアドバイスできるか否かが、弁理士の腕の見せ所といえるでしょう。

弁理士 森本 敏明

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